ラップ解析の活用


以下の解説は2010年第7回練習会のデータを基にしています。
コース図・ルート図・ラップ解析結果などは練習会報告のページからリンクを辿って御覧下さい。


ミスの反省

オリエンテーリングの向上にはミスの内容把握が重要

オリエンテーリングは"走りながら地図を読みタイムを競うスポーツ"であり、体力的に追い込んだ状態での判断力が問われます。このためミスが成績に大きな影響を与えます。
しかし"ノーミスクリア"を目指すのがオリエンテーリングではありません。スピードを落として間違いを犯さないようにゴールしても優勝は出来ません。
逆に言えば、たとえ優勝者であってもミスの無いレースはありえません。
あくまでミスも含めた時間を競うのがオリエンテーリングです。

オリエンテーリングで速くなるためには、体力的負荷と判断ミスのバランスをコントロール出来るようになることが重要です。
このためにはレース/練習会でのミスの把握が重要です。

ルート図で見えるミスと見えないミス

ミスを反省するためには「ここでミスをしたんだ!」という認識が必要になります。
それは簡単なことでしょうか?

迷ってしまい右往左往すれば「ここはミスだった」と誰でも覚えています。
ルート図を書いてもらえば他人でも『ミスだ』と判別できます。
これは目に見えるミスです。

一方、ルートを外れることなく最短距離を進んだレッグにもミスは潜んでいます。
極端な例では、座り込んで地図を眺めながらじっくりと考え込んだりしていた場合です。
止まっていた時間はルート図に現れません。
そこまでいかなくても「これは正しい道だろうか?」と不安を感じているときは自然にスピードが落ちてしまいます。
本来はもっと早く走れるはずのレッグをゆっくりと進んだ時のタイム差が"見えないミス"です。
心理的影響で萎縮しているときはスピード低下の時間把握どころか、スピードが落ちた事自体認識していない事があります。

厄介なのはスピードを落としたら"それはすべてミス"と判断できないことです。
難しい地形でスピードを抑えて走るべき所もあるからです。
オリエンテーリングはマラソンのように一定のラップを刻んで走る競技ではありません。

このような"見えないミス"を焙り出す。あるいは"見えるミス"の時間を定量化するとき役に立つツールがラップ解析です。

ラップ解析による"見えないミス"の解析

ミスタイムに注目

今回の練習会もそうですが、e-Cardを使ったレース/練習会ではラップ表が印刷されたり、インターネットで公開されたりします。
レッグ毎のラップタイムや順位が判りますが、それと一緒に"ミスタイム"も表示されています。
この"ミスタイム"は「あなたが本来走れるはずだったラップタイムと実際のタイムの差を推定したものです。
ルート図ではミスが無いのに"ミスタイム"が大きいレッグが"見えないミス"です。

ラップ解析とは?

どのような方法でミスタイムを計算しているのか?はオリエンテーリングマガジン2007年6月号の解説記事を読んでください。
ラップ解析法の真髄に迫る
ラップ解析を楽しもう
ラップ解析の歴史
大まかに言うと、上位3名のラップタイムとあなたの速かったレッグを比較し、その比率から遅かったレッグのミスの無いラップタイムを推定します。

ラップ解析の精度を上げるにはある程度の人数の実力者が走ることが必要ですが、練習ではあまり贅沢は言えません。
今回は6名のラップからミスタイムを推定していますが、ミスタイムが2分以上あれば「何かあったな」と考えてよいでしょう。

今回のレース解析

以上の観点から、参加者に書いてもらったルート図とe-Cardデータのラップ解析を用いて今回の練習会での反省点をコメントします。
6名のデータからの推定なのでミスタイムに精度がありません。このため"見えないミス"をはっきりと指摘できるのはタイムの遅い人だけになりますが勘弁して下さい。また簡潔に記述するため敬称略とさせてもらいます。
ルート図の写し間違いによる誤った指摘がありましたら御連絡下さい。

見えるミス

見えるミスに関してはルート図で確認して下さい。
以下は名前・レッグ・ミスタイム/(ラップタイム)の順です。

杣:3->4 6'47"/(14'19")
高瀬:8->9 2'41"/(6'28")
13->14 2'33"/(7'40")
田川:3->4 2'39"/(11'06")
11->12 5'32"/(8'41")
13->14 5'36"/(11'01")
鳥居:7->8 3'46"/(6'50")
14->15 3'58"/(9'46")
塚田:4->5 ?'??"/(11'06")

見えないミス

田川:4->5 3'53"/(7'32")
5->6 2'05"/(5'56")
11->12 5'32"/(8'41")
鳥居:4->5 3'02"/(6'59")
5->6 3'06"/(7'17")
11->12 2'28"/(5'53")
塚田:6->7 2'08"/(12'03")

ファインラップ

ミスだけでなく、良かったラップについてもコメントします。
ここで言う"ファインラップ"とはタイムの短かった"ベストラップ"ではありません。
明らかに距離の長い不利なルートを取りながらミスを最小限に抑えた、あるいは逆に巡航速度以上のスピードで走りきったレッグを言います。
ヘタに考え込みながらスピードを落として最短距離を行くよりも、きちんと集中して走り切ったほうが速いことはトップエリートでもよくあります。

田川:  2->3  0'41"/(4'42")田川 2-3
もう一本北側の道の方が距離が短いですがロスを最小限に抑えています
鳥居:  3->4  -0'29"/(8'52")鳥居 3-4
一番北の道を回っています。伊藤/高瀬のルートより明らかに遠回りですが、ラップ3位です。
鳥居:  10->11  0'43"/(4'20")鳥居 10-11
10から真北に脱出しており遠回りです。しかし南の道を回った伊藤君と同タイムです。

見えないミスを減らすには?

技術への自信とリカバーの用意

「このルートは正しいのか?」という心理的要因による"見えないミス"を減らすにはどうすればよいか?

  1. 自分の技術(読図・直進・歩測)を練習で磨き、自信を持つ
  2. リカバーの手段を事前に想定しておく

の2つが思い切り良く走る条件と思います。

4->5の場合は・・・

鳥居/田川 4-5田川君と鳥居君が"見えないミス"を犯した4->5を例にとって解説してみます。
高速道路の橋を渡ってから5番までのルートを示します。

田川君は道の曲りから直進。
鳥居君は植生界と道の交点から植生界沿いに進んでいます。
宮川はコース設定のとき田川君ルート、パンチ台設置の時に鳥居君ルートを通っています。
吉田君/杣君/伊藤君/高瀬君は田川君ルートです。

直進 4-5田川君ルートは道を離れた後、平坦な森の中をコンパスと歩測だけを頼りにすすみます。
この時点では自分のコンパスを一応信じてはいます。しかし本当に自分がコントロールに向かって真っ直ぐに進んでいるのか?それとも右や左へズレているのか?は判りません。
神のみぞ知る、です。
そんなあやふやな状態なのになぜ吉田君達はすごいスピードで走れるのでしょうか?

(答) 先の予想がついているからです。

ラフ直進 4-5コントロールは等高線の混んだ斜面、その下から1/3位の所にあります。
そこでこう考えます。
「周りが平らなうちはコントロール位置じゃない。それどころか斜面を半分位まで降りなければフラッグが見えるわけがない!」
「直進が多少ズレても斜面には必ず行き当たる」

ならばトットと走って斜面の半分までは無条件で走るだけです。行くだけ行ってフラッグが見えなければ、そこから斜面に沿って探します。スピードを落として悩むのはそこからです。

鳥居君ルートも同じで、斜面を半分降るまでは可能なかぎり早く走らなければなりません。

以上を交通信号方式で言うと、
道から離れて周りが平らなうちは青信号区間、可能なだけ早く走ります。
下り斜面が始まったら黄色信号区間、左右を見廻せる位までスピードを落とします。
うまくフラッグが見えたら青信号に戻りますが、斜面を半分以上降り下の平地が近くなってもフラッグが見つからなければ赤信号!!
一度止まって斜面に沿って前後を見渡し、少凹地らしき窪んだ所がないか探しながらゆっくり進みます。

このとき怪しい場所が見えず、前方(西南西)に進むか?戻る方向(東北東)に進むか?は賭けになります。

つまり(ラップ解析の原理からすると)上位3名が青信号区間と判断して走った部分を黄色信号あるいは赤信号区間と考えてゆっくり走る(歩く)と"見えないミス"となります。

"見えないミス"のいちばん厄介なのは、一見してミスには見えないところです。
ラップ解析を参考にして"見えないミス"をミスとして認識出来れば、通常の"見えるミス"と同様に上級者(=同じコースをより速く走った人)にアドバイスを求めることでミスの内容を分析し、次回からは改善していくことができます。

エイミング・オフ

賭けを減らす技術

コントロールが見つからず、「右を探すか?左を探すか?」という賭けを少しでも安全に進めるテクニックをエイミング・オフ(aiming off: 狙い外し)と言います。これは名前通り、わざと少し狙いを外すことです。

エイミングオフ直進では木立や倒木を避けて走らなければなりません。
そこで避けるときは一方向(例えば左)に避けます。一回は僅かなズレですが、繰り返すことで少しずつ左にズレていきます。
すると黄色信号区間で見通せる範囲にフラッグが見えてこない(、つまりズレている)とすればコントロールの左側にいるはず(の可能性が高い)です。
そこで斜面を半分以上降りてもフラッグが見えなければ黄色信号のスピードのまま右に進みます。(右を優先して捜すわけです)
少し進んでも見つからなければ赤信号と判断して探索モードに入ります。

エイミングオフ NG「それじゃ、絶対確実にコントロールが右側に来るように最初から左にずらしてコンパスをセットしよう!」というのは間違いです。
斜面を降りた後、ためらわずに斜面沿いに右方向に進むのは良いのですが、どの程度進めばいいのか判断できません。
「コントロールを見過ごしてしまわないか?」と不安になれば自然にスピードが落ち"見えないミス"となってしまいます。

あくまで直進が基本で、「捜すのならば右側が先!」という程度ずらすのがエイミング・オフです。


初版:2010年12月7日 最終更新:2011年8月7日